マッサ・カンタービレ~ミュージック・スタディ~ 77

イタリアに暮らしていた日々を思い返すと、胸の奥にいまも微かな熱が灯ります。バロック音楽の名手であるイタリア人の先生の前に立ち、必死に音を紡いでいたあの頃。あるレッスンで、先生は突然、楽譜の上に風のようにアレンジを重ねてみせました。理論に裏打ちされながらも、それを軽やかに超えていく旋律は、まるで光が形を変えながら流れていくようで、即興とは思えぬほど優雅で豊かでした。「こうやるんだよ」と微笑んだ先生の声が、いまも耳に残ります。あの音楽に憧れ、懸命に研鑽を重ねた日々が、ふと懐かしくよみがえります。

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