前回、カストラートの時代(バロック時代)のあるローマの音楽学校の1日を紹介しました。そこでそれぞれの授業は何を目的にしているのか書きたいと思います。
1時間目 難解な曲の歌唱
これはソルフェージュを完璧にする修練です。
声楽家にとって喉に、体にそれぞれの音程の感覚を覚えこませることは非常に重要です。楽器のように音を押せば、正しい音程が出せるというわけではないからです。しかし、楽器のようにならなくてはなりません。そのために様々な音型を練習し、どんな音型が楽譜に書いてあっても、まるで完璧に調律をされたピアノを弾くように、歌うことが要求されます。
2時間目・3時間目 トリルの練習 パッサッジョの練習
完璧な発声法の修得です。
トリルの練習は喉の機能に程よいリラックスと適度な緊張を与えます。これにより歌唱する際の理想的な喉の働きと喉のホームができます。
パッサッジョというのは、中音域から高音域の間の声の結び目であり、声楽においてはこの結び目を正確に通過するためのテクニックのことです。これは本来、人間が高音域に移行する際、喉の機能や歌うための喉以外の体の機能を壊さないために無意識に行っている体の動作なのです。声楽の場合、それを意識をしている中で行うことを獲得する必要があります。なぜならこのパッサッジョが不定期にできたり、できなかったりでは喉や体の機能を壊してしまい、また、音楽が芸術ではなくなってしまうからです。
4時間目 言葉の正しい純粋なイントネーションの練習
発音法の修得です。
これこそ、ベル・カント唱法(イタリア式歌唱法)の奥義といっても過言ではありません。イタリアの声楽作品は言葉のイントネーションなどに音をつけて作曲されているからです。優秀なイタリア人の先生は常に「話すように、語るように歌いなさい」と助言をします。イタリアの声楽作品をまるで話しているかのように歌うためには正しい口の動きや適切な口のフォームを獲得する必要があります。
5時間目 表現法の練習
これは、言葉や音楽や身体による的確な表現スタイルの確立を目的としています。
歌う際に、意味不明な表現をしたり、無駄な、大げさな身体的な表現をしたりするのはその作品の冒涜することになるからです。
6時間目 文学またはそれ以外の学問の探求(音楽以外の学問)
歌手は様々なことを教養として身につけなくてはなりません。特に歌手は言葉を操る音楽家なので、言葉の表現に対する深い造詣が必要です。
7時間目 音響理論の勉強
それぞれの劇場・ホールは声の響き方・共鳴の仕方が違うので、自分の声をどのように響かすかを学ぶのです。
これは自分の歌声を有効かつ効果的に使用するためです。
8時間目・9時間目・11時間目 対位法の勉強 作曲の勉強 讃美歌もしくはモテットの作曲
バロック時代は即興で作曲しながら歌うことも要求されたいたので、そのための作曲能力を養うことが目的です。
音楽の仕組みを知ることは歌を歌うときにも、常に先の音程を予想しながら、音楽の調和を考えながら歌うことができます。
10時間目 ピアノの演奏・練習
声楽以外の楽器の一流の奏者になることが目的です。また、音楽を客観的にとらえる目的もあります。
声楽はどちらかというと主観的な楽器であるからです。
12時間目 それぞれの生徒の能力に応じての学問(音楽以外の学問も含まれる)
声楽は先に述べた学問が同じレベルにならないとスムーズに成長していきません。仇となってしまうものをなくすのが目的です。または、得意な分野をさらに成長を促すための時間でもあります。
「音楽学校の授業以外であちこちの教会で歌う」というのは修得したものを実践するためです。
「巨匠の作品を聴くために出かけて行ったりもしました」というのは、いい音楽は様々な面でさらなる成長を与えます。
そして、「演奏や音楽鑑賞のあとは自分の先生に報告をする」ことは、明晰に自分の問題点を分析をしたり、新たな音楽の発見をしたりすることができます。
「モンテ・マリオ(ローマの北西にある高さ139メートルの丘)のアンジェリ門の前に行くこともしばしばありました。それは、歌を歌いながらエコーと聞き比べ、エコーから自分の声の欠点を知るためでした」とありますが、自分自身は自分の声を骨の振動によって聞いているため、空気の振動によって外に放たれている歌声を聴く必要があります。その骨の振動と空気の振動によっての違いを把握して、観客の聞いている歌声で最上の歌声にしていきます。
このようにそれぞれの学問の目的を考えていくと、やはり音楽を志す者にとって最高の環境のように思います。
それではciao ciao!!😊😃😉!!👋👋👋👋